セクハラ・パワハラなどのハラスメントによる被害が増加し、問題となっている昨今。特に興味深いのが口臭や体臭による職場でのスメルハラスメントです。
今回は、スメハラに関する法的見解や過去の裁判事例など、法律的な観点からスメルハラスメントについて解説して頂きました。お話を伺ったのは、アディーレ法律事務所の時光祥大先生です。
Q.スメハラの法的見解は?
昨今、セクハラ・パワハラなどのハラスメントによる被害が増加し、問題となっています。中でも特に興味深いのが「スメルハラスメント」通称「スメハラ」に関して。現在の「スメルハラスメント」に関する法律的な見解について、改めて教えて頂けますでしょうか?
A.スメハラに違法性はありません
--時光先生
スメルハラスメント(スメハラ)の特徴として、セクハラやパワハラとは違い、本人にその自覚がほとんどないということがあげられます。また、現在ではセクハラやパワハラは許されるべきでない、卑劣な行為との認識が一般的となっていますが、スメハラについてはまだ一般的ではなく、ハラスメントの一種であるとはまだ認識されていないことも多いのです。
このため、仮に『におい』を出している本人に注意をしても、ピンとこないばかりか、逆に体質を指摘して侮辱してくるセクハラやパワハラであると誤解を与えてしまうこともあり得ます。
また、パワハラやセクハラであれば、違法な非難されるべき行為として民事の損害賠償(慰謝料)請求もできることがありますが、スメハラであればどこまでが違法であるか非常に線引きが難しく、また体質によるものであればどれだけ『におい』がキツくても、違法とは言えないことも多いのです。このため、スメハラについて確立した法律的見解があるわけではありません。
『におい』のせいで周囲の従業員の体調に悪影響がある場合など、状況によっては席替えを実施するなどの対応は許容されるべきでしょう。
Q.スメハラに関する相談内容は?
イメージ的に、年配の男性の体臭や口臭などに迷惑している女性が、「ハラスメント被害」として訴えるケースが多いように思いますが、実際のところはどうなのでしょう?スメルハラスメントで多いのは、どのような臭いに対しての相談になりますでしょうか?また、どのような方(性別・年代)からの相談が多いのでしょうか?
A.スメハラでの弁護士相談はほとんどありません
--時光先生
もちろん年配男性の体臭、口臭によるトラブルも多いですが、女性の体臭、口臭によるトラブルがないわけではありません。さらに、女性の香水、または衣類の柔軟剤の臭いでのトラブル数もとても多いのです。このトラブルの難しいところは、女性にとってはその『におい』はいいにおいであり、まわりにも喜ばれるもの、少なくとも非難されるものではないと誤解している点でしょう。
なお、セクハラやパワハラとは違い、弁護士に相談してまで解決しようと考える人の数は少なく、スメハラでの弁護士への相談数はほとんどないのが現状です。
Q.スメハラを理由とした裁判事例は?
香水の付けすぎや不潔な生活からの悪臭であれば理解できるのですが、内臓疾患などによる体臭・口臭は致し方ない部分もあるのでは?と思ってしまいます。スメルハラスメントによる訴えや裁判などは、実際に起こっているのでしょうか?もし過去に事例などあれば、実際にどのような訴えに対してどのような結論になったのか、事例をもとに教えて頂けませんでしょうか?
A.スメハラ裁判はほとんど起こっていません
--時光先生
例えば、民事の損害賠償(慰謝料)請求(民法709条)をする場合、前提として、問題となっている行為が違法であることが必要と考えられています。そして、内臓疾患などのよる体臭・口臭は、本人に責任を追及できるものではなく、違法ではないと言えるでしょう。この場合は、まわりの方の理解がどうしても必要となってきます。
なお、今のところは、スメハラを理由とした裁判は、ほとんど起こっていません。セクハラやパワハラとは違い、裁判をしてまで解決しようと考える人がまだ少ないからではと推測されます。
Q.スメハラ加害者から訴えられる可能性は?
例えば、口臭などの原因を探っていくと、ストレスによる間接的な影響によるものもあると聞きます。スメハラを指摘された側が、逆に会社側を上記のような内容で訴える、なんて事もありえるのでしょうか?その場合、どのような結論になる可能性が考えられますか?
A.十分あり得ると思います
--時光先生
実際にそのような裁判がおこなわれたわけではありませんが、あり得ると思います。例えば、会社側のパワハラで異常なストレスを感じたために体臭が悪化したり、また過酷な時間外労働(残業)のために満足に風呂に入る時間がなく体臭が悪化したりしたときに、会社側から体臭を理由に不当な扱いを受けた場合、反対に会社のパワハラや過酷な時間外労働を訴えることは十分あり得るでしょう。この場合、損害賠償請求や、時間外労働手当の請求が認められることも十分あり得ると思います。
取材協力
時光祥大(ときみつしょうた)弁護士(東京弁護士会所属)
弁護士法人アディーレ法律事務所
まとめ
というワケで、今回は「スメルハラスメント」について、弁護士の時光祥大先生に色々とお話を伺いました。基本的にスメハラ自体に違法性はなく、実際に裁判や訴訟などに発展しているケースはほとんどないとの事。
とはいえ、口臭や体臭による職場での被害は甚大で、周りの士気や業務効率に大きく影響する問題でしょう。職場内でもめることなく、円滑なコミュニケーションで解決出来ると良いのですが、なかなかデリケートな問題ですから、解決策が見つからずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
口臭の指摘の仕方にも様々なテクニックがあり、相手によって、状況によっても指摘の仕方やポイントは変わってきます。以下のページでも、傷つけない口臭に伝え方などを解説していますので、是非活用してみて下さい。